はじめに
家族信託は認知症対策や遺⾔の代⽤といった効果を得ることができるため不動産オーナーにとって⾮常に⾝近な相続対策ツールとなっています。
ご⾃宅だけなく賃貸⽤不動産も信託財産とする契約も増えてきた印象です。
ご⾃宅だけの信託契約でしたら不動産所得が⽣じることはありませんが、賃貸⽤不動産を信託した場合は不動産所得が⽣じることになります。この記事では賃貸⽤不動産を信託財産とした場合の税務上の注意点についてまとめました。
信託された賃貸⽤不動産から⽣じた損失
通常の信託されていない不動産から⽣じた損失については他の所得(年⾦、給与等)と損益通算することができます。つまり、プラスの所得とマイナスの損失を相殺することができます。
しかし、信託された賃貸⽤不動産から⽣じた損失については、その損失がなかったものとみなされます。
したがって、信託から⽣じた不動産所得の損失は他の所得と相殺することができません。
現物不動産と信託不動産がある場合
上記のものは信託不動産から⽣じた損失についてはなかったものとみなされるものであり、現物不動産から⽣じた損失については信託不動産から⽣じた所得(利益)と相殺可能です。
したがって、修繕が多くかかりそうな不動産や購⼊年度に不動産取得税や登録免許税により損失が発⽣しそうな年度については現物として所有しておき、プラスの所得が⾒込まれる不動産については信託するというケースも考えられます。
複数の信託契約がある場合
財産ごとに受託者を分ける場合や、権利の帰属者を信託契約ごとに分けるといったケースも想定されます。
この場合、複数の信託契約が存在することになりますので信託契約Aで⽣じた所得(利益)と信託契約Bで⽣じた損失は損益通算できるのでしょうか︖
答えはNOです。
不動産を信託財産とする信託契約が複数ある場合は、その信託契約ごとに計算することになるので信託契約Aの利益と信託契約Bの損失を合算することはできません。
仮に、⼀つの契約の中で複数の不動産があり、その中で利益と損失が⽣じた場合は損益通算可能なので可能な限り⼀つの契約の中で複数の不動産を信託すべきでしょう。
損失の繰越控除
所得税の計算上、損失が⽣じた場合は⻘⾊している年分の所得に限り翌年以降
3年間の繰越控除が認められています。
しかし、信託された不動産から⽣じた損失についてはそもそもなかったとみなされることになるので損失の繰越控除も認められていません。
特に、⼤規模修繕で⼤きな損失が⽣じる可能性がある年度については慎重に検討しなければなりません。
おわりに
本記事では賃貸⽤不動産を信託した場合に信託不動産から⽣じた損失の課税関係についてまとめました。
理論上では信託不動産から⽣じた不動産所得の損失については他の所得と損益通算できないのですが、通常ですと不動産所得がマイナスになることは極めて少ないと思います。
従いまして、実務上では購⼊した物件をそのまま信託不動産にする年度や修繕費が多くかかりそうな年度に気を付けなければならないものかと考えます。賃貸⽤不動産を信託する際は専⾨家に相談して税務的に不利益にならないように慎重に検討しましょう。