こんにちは。税理士の太田圭子です。
大規模修繕への備えが、毎年の経費になる画期的な共済制度として、以前にこの相続レポートで記事にした賃貸住宅修繕共済。数年を経た今、補償内容が拡大され更に進化を遂げています。今回は進化した賃貸住宅修繕共済について解説いたします。
1. 賃貸住宅修繕共済の概要
建物一棟を所有する賃貸オーナーにとって、新築から15年ないし20年で必要となる大規模修繕への資金準備は大変頭の痛い問題です。区分所有建物と違って、修繕積立金は経費にならないため、税金を払った後の資金でしか積立ができないことも資金準備を難しくする原因の一つでした。その解決策として2021年に誕生したのが賃貸住宅修繕共済です。その一番の画期的な特徴は将来の修繕資金が、共済掛金として毎年の経費になるという点です。
実はこれを国に認めてもらうことは容易ではなく、掛金の80%までしか認めないという国に対し、粘り強い交渉を経て100%の経費算入を勝ち取ったという経緯があるそうです。
2. 拡大された補償内容
この賃貸住宅修繕共済は、100%の経費が認められただけでも十分画期的でしたが、今に至るまでに以下のような改正が認められ、更なる進化を続けています。
① 対象範囲がすべての共用部にまで拡大された
設立当初、補償対象の範囲は外壁と屋根のみに限られていましたが、2023年12月より給排水設備、エレベーターなどを含むすべての共用部に対象範囲が拡大されました。これにより大規模修繕の主要な項目についての資金準備を共済でカバーすることが可能になったといえます。
②自然災害等により建物の全部が滅失した場合「特別一時金」が受け取れるようになった。
これは2024年11月28日に国土交通省の認可を受けた改正です。改正前は共済の対象となる建物の全部が滅失した場合、共済契約は失効となり、返れい金の支払いはありませんでした。それが今回の改正で、自然災害等の不慮の事由を原因とする建物全部滅失による共済契約失効の場合には、未経過共済掛金相当額から事務手数料を差し引いた額が、「特別一時金」として加入者へ支払われることとなりました。
なお、以上①②の改正は、既に加入済みの契約についても適用されます。
3. 共済設立時から続くメリット
共済掛金が全額経費になることで、所得税の節税効果が期待できます。また、共済金は掛け捨てで解約返戻金がないことから、現行の相続税法では相続税の対象となりません。預金等で修繕資金を積み立てる場合、まず所得税や住民税が課税され、税金を払った後に残った資金を積み立てることになります。更に大規模修繕を行う前に相続が発生してしまった場合、その積み立てていた資金に更に相続税が課税されます。特に富裕層オーナーについては所得税、相続税ともに高い税率で課税される傾向にあり、これでは大規模修繕に備える十分な資金準備は困難です。
そのような場合に賃貸住宅修繕共済を活用することで、大規模修繕を行う時まで課税されることなく資金準備が可能となります。
4. 共済のデメリット
以下の点は主なデメリットとされている点です。
①掛け捨ての為、解約返戻金は無い
②専有部分は対象外
③共済の対象は修繕であり、グレードアップには使えない
その他詳細は全国賃貸住宅修繕共済協同組合のホームページでご確認下さい。
https://shuzen-kyosai.jp/
5. 最後に
設立以来、改正を続け進化する賃貸住宅修繕共済。今後は劣化した建物の解体費用も補償対象に拡充しようと協議中のようです。節税効果もさることながら、賃貸住宅の価値を着実に維持するための有効な選択肢といえるでしょう。今後の更なる進化にも期待が集まります。